マルバノホロシ










「ほら、起きなさいレナック!行きますわよ!」
「あーい…」
俺の名をきんきんと朝から呼ぶのは一応雇い主のラーチェル様。
黙ってれば麗しいロストン聖共国の王女様、だ。黙ってれば、だけどな!
見た目は確かにお綺麗だよ。ああ確かにな!……だが煩い。その所為で彼女の見た目の麗しさは半減して見える。
「ガハハ!お前さん、寝癖がついとるぞ!!」
「……分かってますよ」
お伴もこうもいかついおっさんだから、猶更のこと。



大体!俺は騙されたに違いねぇ。
国の麗しき王女様が旅を申し出ているから、お伴をしろ、だと?
どんな麗しき(お静かでおしとやかな)王女が出てくるのかと思いきや
「貴方が私の新しいお伴ですの?よろしい、ではすぐにまいりますわよ!」
……これだもんな。
俺は国レベルの詐欺にひっかかっちまったんだきっと。
さすがは俺様、ひっかかるレベルも桁違いだぜ。……はあ。





その夜も、まあ珍しくちゃんとした町へ着いた俺達は、良い宿を探していた。
「ここの宿で一番良い部屋にしてくださいまし」
あっさりと言ってのけるラーチェル様。まあいいけどさ。王女様だし。
「それと、この者達に次にいい部屋をそれぞれに。ええ、お金なら平気ですわ」
「……」
「ガハハ!ありがたき幸せ!」
「ほら、どうしましたのレナック。お部屋の鍵ですわよ。さぁ、行きましょう」
「あ…はい」
俺は鍵を受け取って、与えられた部屋へと向かう。
ラーチェル様は気が強くて、いつも俺達を突拍子もないことで引き摺って行く。
それなのに。


「なんだろう……」

彼女は決して俺達を邪険にはしないし、むしろ大切に一人の人間として扱ってくれる。
さげすむような瞳を下ろす貴族の糞野郎共と違って、親しみのある眼差しを向けてくれる。
それがどこか、無図痒くもあるんだ。
「まぁ……いっか」
とりあえずベッドにごろりと横になる。
うとうとと気持ちよくまどろみ始めた、まさにその時。

「レナック!行きますわよ!」
「ってええ!?まだここに着いたばかりじゃ…」
「この町の外れで魔物が出現したそうですわ。急いで駆け付けるのです。行きますわよ!!」
「行くぞレナック!!わしらの助けを必要としてる輩が居るのじゃ!ガハハ!!」
「えええ〜〜〜〜!!?」

もう嫌だ!
これだからあの人は…!!
もう、もう…こんなことって!!!


次は、絶対、絶対、絶っっっ対に騙されないんだからな!!!!!










End


きっと次も騙される。(笑
それでも密かにラーチェルのことを気遣っちゃって、……あれ?みたいな。
そんなレナックが良いと思います。まる! 2013,7,8









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